火星の北半球には頂上に小さなクレーターがある円錐形の丘が多数存在していて、研究者からは泥火山の可能性があるのではないかと考えられてきました。今回、火星のような環境下で泥の流れがどのようにふるまうのかを検証した実験結果が発表されています。
■火星の泥流はパホイホイ溶岩のようにふるまう
カスピ海の沿岸地域をはじめ地球上の各地に存在する泥火山では、泥水とメタンなどのガスが噴出しています。「火山」という名前からは熱そうな印象を受けますが、溶岩を噴出する火山とは違い、必ずしも高温とは限りません。研究者の一部は、かつて海が形成されるほどの水が表面に存在していたとみられる火星でも、泥火山から泥が噴出していたのではないかと考えてきました。
Petr Brož氏(チェコ科学アカデミー)らの研究チームは、長さ1.8m、直径90cmの低温チャンバーを使って火星の環境を再現し、泥水がどのように流れるのかを実験によって確かめました。その結果、火星の泥流は地球におけるパホイホイ溶岩のようにふるまう可能性が示されたといいます。
パホイホイ溶岩は粘性が低い溶岩流の一種で、薄く固まった表面を破って溶岩が流れ出し、その表面が再び薄く固まることを繰り返しながら流れていきます。固まった表面は袋状になったり、しわが寄って縄のような模様になったりする特徴があります。
火星では北部を中心に数万もの火山に似た地形が見つかっています。こうした地形の一部は泥火山ではないかとみられていたものの、火星の低温・低圧な環境における泥流のふるまいについてはよく知られていなかったといいます。今回の研究成果は、火星では泥流が溶岩流と同じようにふるまう可能性があり、地形の成因として溶岩流と泥流の両方を考慮する必要性を示唆しています。
Brož氏は「私たちが子どもの頃の遊びを通して経験してきた泥の流れのような単純なプロセスでさえ、火星では大きく異なることが今回の実験で示されました」とコメント。研究に参加したErnst Hauber氏(ドイツ航空宇宙センター惑星研究所)は「一見単純な地形でさえ、他の惑星においては常に異なる物理的条件を考慮しなければならないことがわかります」と語っています。
▲チェコ科学アカデミーから公開されている実験の解説動画(英語)▲
Image Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
Source: DLR
文/松村武宏