2019年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が2度に渡るサンプル採取を実施した小惑星「リュウグウ」。現在のリュウグウは時折地球に接近することもある地球近傍軌道を周回していますが、数十万~数百万年前には現在とは異なり、今よりも太陽に近づく軌道を描いていた可能性を示す研究成果が発表されました。
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■太陽により変性したとみられる赤黒い物質と変性していない青白い物質の分布から推定
2019年2月22日(日本時間)に実施された「はやぶさ2」による第1回タッチダウンの際、発射された弾丸や機体が上昇したときの噴射によって、小惑星リュウグウの表面から岩石とともに赤黒い微粒子が舞い上がった様子が確認されました。同様の赤黒い物質はリュウグウの中緯度地域の表面にも分布しているものの、そのいっぽうで赤道周辺や極域では青白い物質が目立つことがすでに明らかになっています。
リュウグウの表面に分布する物質について詳しく調べた諸田智克氏(東京大学)らの研究チームによると、赤黒く見えるものは太陽による加熱や風化によって変性した物質であり、変性を受けていない青白い物質と混在しつつ、リュウグウの表面から数十cm~数m程度の深さまで層を成していることが明らかになったといいます。
この赤黒い物質が太陽による加熱で変性を受けたとみられる期間は、クレータの形成年代をもとに30万~800万年前と推定されています。リュウグウはおよそ900万年前までに火星よりも外側の小惑星帯で形成され、この期間には現在よりも太陽に近づく軌道を描くようになったと考えられており、その後、まれに地球へと接近する現在の軌道へと移動したものとみられています。JAXA宇宙科学研究所では、リュウグウが水星の軌道よりも内側にまで入り込む時期があった可能性に言及しています。
また、太陽の加熱で変性したとみられる赤黒い物質は赤道周辺にも分布していたものの、リュウグウ表面の物質が低緯度から中緯度に向けて流動していく過程で赤道周辺からは減っていき、変成を受けなかった青白い物質が赤道周辺では目立つようになったとみられています。
なお、タッチダウンの際に舞い上がった赤黒い微粒子は、太陽による変成作用を受けた後に微小天体の衝突や熱疲労によって破壊された岩石の破片とみられています。タッチダウン地点には変性を受けていない青白い物質も存在していたことから、「はやぶさ2」では赤黒い物質と青白い物質の両方を採取できた可能性があり、太陽による変性作用の解明につながるのではないかと期待されています。
Source
- Image Credit: JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研
- JAXA, 東京大学
文/松村武宏