かに座の方向およそ35億光年先にある銀河「OJ 287」は、約12年間で2回のフレアが発生する活動銀河核を持つことが知られています。今回、OJ 287で観測されるフレアのタイミングを従来以上の精度で予測することに成功したとする研究成果が発表されています。
■地球からは見えないタイミング、予測当日にスピッツァーで観測
Seppo Laine氏(カリフォルニア工科大学赤外線画像処理・分析センター)とLankeswar Dey氏(タタ基礎研究所、インド)らの研究チームは、2019年7月31日に観測されることが予測されていたOJ 287のフレアを予測通りの日に捉えることに成功したと発表しました。OJ 287で発生するフレアは1兆個の恒星を合わせたよりも明るく、天の川銀河全体よりも明るいとされています。
フレアが観測される日は以前にDey氏らが構築したモデルによって事前に予測されていたものの、ちょうど太陽がかに座の方向に位置する時期だったため、地上の天文台や地球を周回する宇宙望遠鏡から観測することはできませんでした。そこで研究チームは、当時運用中であり、地球から2億5400万km(地球から月までの距離の600倍以上)離れたところにあったNASAの宇宙望遠鏡「スピッツァー」を観測に用いています。スピッツァーの位置からOJ 287を観測できたのは、偶然にも予測された7月31日からでした。Laine氏は「フレアのピークをスピッツァーで捉えられたのは本当に幸運でした」とコメントしています。
OJ 287の中心部には、太陽のおよそ180億倍という非常に重い超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。これは国際プロジェクト「イベントホライズンテレスコープ(EHT)」が直接撮影に成功した「M87」の超大質量ブラックホール(質量は太陽のおよそ65億倍)の3倍近い質量です。このブラックホールの周囲には約12年周期で公転する別のブラックホールが存在するとみられており、その質量は太陽のおよそ1億5000万倍と見積もられています。
軽いほうのブラックホールは重いほうのブラックホールを取り巻く降着円盤を横切ることがあり、このときにフレアが発生すると考えられています。1回公転するあいだに降着円盤を2回横切るため、約12年間で2回のフレアが生じるというわけです。
ただ、フレアとフレアのタイミングは狭いときで1年ほど、広いときで10年ほどの間隔があり、不規則に生じているように見えます。その理由として、重いほうのブラックホールの重力がもたらす一般相対論的効果によって、軽いほうのブラックホールの軌道が花びらを描くように歳差運動する「近点移動」が関係していると考えられています。
近点移動によって軌道が少しずつずれていくことで、軽いほうのブラックホールが降着円盤を横切るタイミングも毎回変わり、一見不規則にフレアが生じているように観測されます。軌道の変化とフレアが観測されるタイミングの関係は、こちらの動画で解説されています。
従来の研究でもフレアのタイミングを3週間以内の正確さで求めることができていましたが、Dey氏らはこのタイミングをより正確に算出することで、フレアが観測される日を的中することに成功しています。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏