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2019年8月に発見された観測史上2例目の恒星間天体「ボリソフ彗星(2I/Borisov)」。今回、NASAの「ハッブル」宇宙望遠鏡やチリの「アルマ望遠鏡」を使ってボリソフ彗星を観測した結果、一酸化炭素の含有量が平均的な太陽系の彗星よりも多いことがわかったとする研究成果が相次いで発表されました。

■一酸化炭素が豊富なボリソフ彗星は低温の環境で形成されたか

恒星間天体「ボリソフ彗星」を描いた想像図(Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)

今回発表されたのは、Martin Cordiner氏(NASA・ゴダード宇宙飛行センター)らとDennis Bodewits氏(オーバーン大学、アメリカ)らによる研究成果です。

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Cordiner氏らの研究チームが2019年12月15日と16日にアルマ望遠鏡を使って太陽最接近直後のボリソフ彗星を観測したところ、彗星から噴出したガスに含まれる一酸化炭素(CO)の含有量が、太陽から2天文単位(地球から太陽までの距離の2倍)以内の距離で観測されたどの彗星よりも多いことが判明しました。その量は太陽系における平均的な彗星の9~26倍に達するといいます。

また、Bodewits氏らの研究チームが2019年12月11日から2020年1月13日にかけてハッブル宇宙望遠鏡を使いボリソフ彗星を観測したところ、ボリソフ彗星のコマ(彗星の核を取り巻く噴出したガスや塵の集まり)に含まれる一酸化炭素の量が、最低でも水(水蒸気)の1.73倍に達することが明らかになりました。これは過去に太陽から2.5天文単位以内に近づいた彗星の3倍以上の量だとされています。

以上のように、2つの研究はどちらも「ボリソフ彗星には平均的な太陽系の彗星よりも一酸化炭素が多く含まれている」という結論に達しています。揮発性が高い一酸化炭素の氷は、水の氷よりも低い温度で昇華します。そのため、一酸化炭素を豊富に含むボリソフ彗星は、太陽系の彗星よりも低温の環境で形成されたとみられています。

可能性の一つとしてあげられているのが、赤色矮星の周辺です。赤色矮星は太陽よりも軽くて表面温度が低く、太陽よりも暗いため、惑星や彗星などが形成される原始惑星系円盤の温度も低いと考えられています。赤色矮星は天の川銀河ではありふれた恒星であるため、ボリソフ彗星のような「恒星間彗星」の多くは一酸化炭素を豊富に含んでいるのかもしれません。

またCordiner氏は、アルマ望遠鏡によってこれまで観測されてきた原始惑星系円盤の多くが、太陽系で彗星が形成されたと考えられている領域の外側にまで大きく広がっていることに言及。ボリソフ彗星もこうした大きな原始惑星系円盤の低温な外縁部で形成された可能性を指摘しています。

ただ、彗星としての活動を示した恒星間天体はボリソフ彗星が唯一の観測例であり、たまたま一酸化炭素に富んでいただけなのかもしれません。今回の観測結果がボリソフ彗星ならではの特徴なのか、それとも恒星間彗星全般の傾向なのかを知るために、研究者たちはより多くの恒星間天体が見つかることに期待を寄せています。

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したボリソフ彗星(Credit: NASA, ESA, D. Jewitt (UCLA))

 

Image Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello
Source: 国立天文台 / NASA / Hubblesite
文/松村武宏

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