「太陽系で地球以外に生命が存在する、あるいは存在したことが期待できる天体は?」と聞かれれば、火星、エウロパ、エンケラドゥスといった惑星や衛星の名前をあげる人が多いでしょう。今回、そのリストに「水星」が加わることになるかもしれない研究成果が発表されています。

■カロリス盆地の裏側にある地形、衝突のずっと後まで形成活動が続いていた

水星探査機「メッセンジャー」が撮影した水星(表面の物性によって色を強調したもの)。問題の地域は画像中央付近に明るく写るカイパー・クレーターに向かって下~右下にかけて広がっている(Credit: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington)

太陽系の惑星のなかでも太陽に一番近く、昼の表面温度は摂氏400度まで上がり、夜は摂氏マイナス160度まで下がる水星。Alexis Rodriguez氏(米国惑星科学研究所)らは今回の研究において、水星の地殻にもかつては水をはじめさまざまな種類の揮発性物質が存在しており、場合によっては原始的な生命体が誕生する条件が整っていた可能性もあるとしています。

研究チームは、水星最大の衝突地形であるカロリス盆地(直径1300km)のちょうど裏側にある、山と谷が入り乱れた複雑な地形に注目しました。1974年に水星探査機「マリナー10号」によって撮影されて以来、この地域はカロリス盆地を生じさせた衝突の衝撃と、衝突で舞い上がった噴出物が降り積もったことで形成されたものと考えられてきました。

しかし、水星探査機「メッセンジャー」によって得られた新しい観測データをもとに研究チームが分析したところ、この地域では今からおよそ18億年前まで活動が続いていたことが明らかになったといいます。この地域の地形に変化をもたらした活動がいつ頃から始まったのかは明らかになっていませんが、カロリス盆地は今から38億~39億年前に形成されたとみられており、同じ衝突によってこの地域の地形が形成されたとは考えにくいといいます。

研究チームによると、この地域において地殻に含まれていた揮発性の物質がガスとなり大量に失われた形跡が確認されました。その範囲は50万平方kmに渡り、揮発性物質が失われたことで標高がkm単位で低くなったようです。同様の地形的な特徴は水星の赤道から高緯度まで広範囲に分布しており、揮発性物質はおそらく水星の全域に渡って分布していたとみられるようです。揮発性物質が失われた原因として、水星の火山活動や太陽熱が挙げられています。

■ハビタブルゾーンの内側が拡張されるかもしれない

水星では北極や南極にある永久影(地形にさえぎられて常に太陽光が当たらない場所)に水の氷が存在するとされています。研究チームでは、このような永久影以外の場所でもかつては地下に水の氷が存在し、条件次第では生命が誕生できたかもしれないと考えています。こうした揮発性物質は初期の地球と同じように小天体の衝突によって地殻にもたらされたか、あるいは水星内部に起源をもつとみられています。

研究チームは、水星では場所によって今も揮発性物質が失われている可能性がある点にも言及。その場所に探査機を送り込むことで、揮発性物質が地形に与えた影響や、かつて誕生したかもしれない生命の痕跡を実際に調査できるかもしれないとしています。

さらに、研究チームは論文のなかで、水星のような惑星の地殻内部において生命が誕生し得る環境が整うとすれば、ハビタブルゾーンの内側の境界線をさらに恒星の近くまで拡大できるかもしれないとしています。他の恒星を周回する太陽系外惑星にも同じことが言えるとしており、今後の系外惑星探査にも関わってくる研究成果となるかもしれません。

 

Image Credit: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington
Source: PSI
文/松村武宏

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