海王星に次いで太陽から遠いところを周回する天王星。その最大の特徴は「横倒し」になっていることで、天王星の自転軸は公転軌道に対して約98度も傾いています。これまでその理由は巨大衝突によるものと考えられてきましたが、条件が整えば衝突がなくてもある程度までは傾くとする研究成果が発表されました。

■天王星はある程度重い周惑星円盤があったために自転軸がふらつきやすかった

無人探査機「ボイジャー2号」が撮影した天王星(左)と海王星(右)(Credit: left: NASA/JPL-Caltech, right: NASA)

どうして天王星が約98度も傾いて自転するようになったのか、その理由はまだはっきりとはわかっていません。今回、Zeeve Rogoszinski氏Douglas Hamilton氏は、誕生したばかりの天王星や海王星(自転軸の傾きは約28度)を取り囲んでいたと考えられるガスや塵の円盤(周惑星円盤)を考慮し、円盤が消滅するまでの100万年間の様子を複数の条件に従ってシミュレーションで再現しました。

その結果、「周惑星円盤から物質が失われて質量が減るいっぽうで、周惑星円盤を構成していた物質を取り込んだ惑星の質量は増える」という現実的な条件において、天王星の自転軸が最大約70度まで傾き、周惑星円盤が消え去った時点でも60度ほどの傾きを保つ可能性が示されました。

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今回の研究では、自転軸がここまで大きく傾く理由として「自転-軌道共鳴(Spin-Orbit Resonance)」に注目しています。自転-軌道共鳴とは、「コマのように自転軸の向きが変わっていく歳差運動の周期」と「他の惑星の影響で公転軌道の傾きが変わる周期」が一致する現象のこと。この状態になると、惑星の自転軸の傾きが大きく変わりやすくなるといいます。

Rogoszinski氏とHamilton氏は、十分な質量の周惑星円盤が存在していた場合、誕生して間もない頃の天王星や海王星の歳差運動の周期は今よりも短く、自転-軌道共鳴の状態になりやすかったとみています。両氏は論文において、「周惑星円盤の質量が円盤から形成された衛星全部を合わせた質量の3~10倍」で「公転軌道の傾きが5度以上」あった場合、自転-軌道共鳴によって天王星の自転軸は最大70度、海王星でも30度まで傾くことがわかったとしています。

■巨大衝突は天王星を横倒しにする最後のひと押しだった?

ただ、実際の天王星の自転軸はさらに30度近くも傾いており、自転-軌道共鳴による傾きだけでは足りません。両氏は、約98度まで傾くことになった最後のひと押しこそが、天王星への巨大衝突だったのではないかと考えています。

両氏は、場合によっては天王星に複数回の巨大衝突があったとする説の問題点を論文のなかで指摘しています。たとえば、自転軸の傾きが70度ほど違う天王星と海王星では衝突の影響も違っていたはずですが、衝突によって加速されたり減速されたりしてもおかしくない自転周期は、天王星(17.2時間)と海王星(16.1時間)では6パーセントしか差がありません

いっぽう、周惑星円盤が存在していた頃の自転-軌道共鳴によって自転軸が大きく傾くとすれば、巨大衝突の確率が低くても現在の傾きに至るといいます。天王星の場合は地球の半分ほどの質量の原始惑星が1つ衝突するだけでよく、海王星については巨大衝突を一切考慮することなく、自転-軌道共鳴のみで現在の傾きに達した可能性があるとしています。

 

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: アメリカ天文学会
文/松村武宏

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