謎を解くカギは“青いはぐれ者”だ。同じ年齢でも見た目が異なる球状星団の進化を探る

9月9日に公開されたこちらの画像は、「ハッブル」宇宙望遠鏡によって撮影された球状星団「NGC 1466」の姿です。今回、ハッブル宇宙望遠鏡を使って球状星団の進化に迫ったFrancesco Ferraro氏らの研究成果をまとめた論文が、同日付でNature Astronomyに掲載されました。

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した球状星団「NGC 1466」

■2つの恒星が相互作用してできた「青色はぐれ星」

NGC 1466は南天の「みずへび座」の方向およそ16万光年先にあり、天の川銀河の伴銀河である大マゼラン雲を周回しています。星団全体の質量は太陽14万個分に相当し、その年齢は宇宙の年齢にも近いおよそ131億歳とされています。

今回Ferraro氏らの研究チームは、大マゼラン雲にある球状星団から冒頭のNGC 1466をはじめとした5つの星団を選び出し、ハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」の観測データを使って「青色はぐれ星(blue straggler)」と呼ばれる恒星を重点的に観測しました。

球状星団の恒星はほとんど同じ時期に誕生したとみられており、似たような恒星は同じようなタイミングで歳を重ねていくと考えられています。しかし、なかには星団の平均よりも重くて明るく温度が高い、性質の異なる青い恒星がみられます。青色はぐれ星とは、このような恒星を指す言葉です。

周囲の恒星よりも重い青色はぐれ星の性質は、別々の恒星が2つのパターンで相互作用した結果だと考えられています。1つ目のパターンは、2つの恒星が衝突して1つに合体した結果、青色はぐれ星になったというもの。2つ目のパターンは、接近した2つの恒星のうち片方が、もう片方からガスを奪い取って成長した結果、青色はぐれ星になったというものです。

いずれにしても、青色はぐれ星は最初から球状星団に存在していたのではなく、数多くの恒星が行き交うなかで一定以上に接近した結果誕生したものということになります。

■青色はぐれ星の分布から球状星団の「見た目の年齢」を測定

青色はぐれ星は「2つの恒星が合体」(左)または「別の恒星のガスを吸収」(右)することで誕生すると考えられている(Credit: ESA/Hubble, M. Kornmesser)

従来の研究によると、球状星団では時間が経つにつれて重い星が中心付近に集まるいっぽう、軽い星は周囲に広がっていくとされています。時間が経つほど球状星団のサイズが大きく、中心付近にある星の密度が高まるといった力学的な変化の度合いは、力学的年齢と呼ばれています。

こうした力学的年齢……あえて表現すれば「見た目の年齢」は、球状星団の実際の年齢とは異なることがあります。同じくらい古い球状星団でも、若い頃のようなコンパクトさを保っている場合があるのです。

Ferraro氏らは青色はぐれ星の分布状況を精密に観測することで、大マゼラン雲にある球状星団の力学的年齢を初めて求めることに成功しました。平均よりも重い青色はぐれ星は力学的な変化を受けやすいため、球状星団の力学的年齢を求めるのに都合が良いのです。

分析の結果、冒頭に掲載したNGC 1466は、観測対象となった5つの球状星団のなかでは力学的年齢を比較的重ねているほうであることがわかりました。いっぽう、別の球状星団「NGC 1841」と「Hodge 11」は、力学的年齢が比較的若いことも判明しています。

研究に参加した論文共著者のBarbara Lanzoni氏は、大マゼラン雲の球状星団がどのように形成されたのかを探る上で、今回の研究成果は新たな知見を得るヒントになるだろうとコメントしています。

 

Image Credit: ESA/Hubble & NASA
https://www.spacetelescope.org/news/heic1915/
文/松村武宏