X線観測衛星「チャンドラ」によって撮影されたほ座パルサー

オーストラリアのモナシュ大学は8月13日、パルサーの自転が瞬間的に速まる「グリッチ」と呼ばれる現象に迫ったGreg Ashton氏らの研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、8月12日付でNature Astronomyに掲載されています。

■パルサーの5%はときどき自転が速くなる

パルサーとは、恒星の超新星爆発によって誕生した高密度の中性子星のうち、パルス状の電磁波(光、電波、X線など)が観測されるものを指します。

中性子星の自転軸に対して磁軸が傾いている場合、磁極から宇宙空間に放出された電磁波のビームが自転周期に従って断続的に地球に届くことがあるのですが、中性子星の自転速度は非常に速いため、まるで点滅しているように観測されるのです。

この動画は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が公開しているパルサー「PSR J0348+0432」の想像図。小さいほうがパルサーで、大きいほうは連星系としてペアを組む白色矮星です。パルサーの自転に伴い、ビームがくるくると回転している様子がよくわかります(実際のPSR J0348+0432の自転周期は40ミリ秒と非常に短く、回数にすれば1秒間に25回と極めて高速で自転しています)。

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電磁波が明滅する周期を測ることで、パルサーの自転速度はかなり精密に求めることができます。数多くのパルサーが見つかっている現在では、自転速度がときどき急激に速くなり、徐々に減速していくという変わった特徴を示すパルサーが知られています。この急激な加速は「グリッチ(glitch)」と呼ばれていて、パルサー全体のおよそ5%だけに見られる現象です。

■3年ごとにグリッチを繰り返す「ほ座パルサー」

Ashton氏らの研究チームは、南天の「ほ座」の方向およそ1000光年先にあるパルサー「ほ座パルサー」2016年に発生したグリッチを観測しました。ほ座パルサーの自転周期は89ミリ秒ほど(1秒間におよそ11回自転)ですが、約3年ごとにグリッチを繰り返すことが知られており、Ashton氏をはじめとした研究者によって繰り返し観測されています。

今回の精密な観測によって、ほ座パルサーにおけるグリッチ発生時の自転速度はややオーバーシュートしており、13秒未満という短時間で最大速度まで急加速したのちにわずかに減速してから落ち着いていく様子が判明しました。例えるなら、自動車を急加速したときにタイヤが一旦スピンしてしまい、そのすぐあとに路面をグリップするようなイメージです。

■ほ座パルサーで見つかったグリッチ直前の減速現象

ところが、オーバーシュートは事前に予想されていたものの、予想外の変化も見つかりました。グリッチによってほ座パルサーの自転速度が加速される直前、自転速度が一時的に減速していたのです。

グリッチが発生する原因として、パルサーの内部を高速で流れる超流体と、パルサーの外側にある固体の殻(クラスト)、それぞれの回転速度の差が挙げられています。

パルサーの自転速度は超新星爆発による誕生から長い時間をかけて徐々に減速していますが、パルサーの内部を流れる超流体は固体の殻よりも速く回転しているとみられており、時間が経つにつれて内外の速度差が広がっていくと予想されています。

この速度差がある限界を迎えたとき、超流体の運動エネルギーが急速に固体の殻へと流れ込み、結果としてパルサーの自転速度が急加速されるのではないかと考えられています。

今回見つかったグリッチ直前の減速が何を意味するのかは不明で、今後の観測や研究を待たなければなりませんが、研究チームはこの減速が引き金となってグリッチの発生が促されるのではないかと推測しています。

 

Image Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ of Toronto/M.Durant et al; Optical: DSS/Davide De Martin
https://www.monash.edu/science/news/current/glitch-in-neutron-star-reveals-its-hidden-secrets
文/松村武宏

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