アメリカ天文学会は8月7日、「ケプラー」宇宙望遠鏡の観測データから非常に軽い白色矮星を発見したとするプリンストン大学の増田賢人氏らによる研究成果を紹介しました。研究内容は論文にまとめられ、8月5日付でThe Astrophysical Journalに掲載されています。
■まだあるはずがない「軽すぎる白色矮星」の謎
太陽の8倍よりも軽い恒星は、水素を燃やし尽くす過程で赤色巨星となり、残った水素などの物質を周囲に放出しきって白色矮星へと進化します。
白色矮星は核融合で輝くことはないため、恒星としては死を迎えた姿と言えます。その質量はおおむね太陽の0.6倍ほどで、上限は太陽の約1.4倍(※)。恒星だった頃の質量が白色矮星の質量も左右すると見られています。
ところが、白色矮星のなかには太陽の0.15~0.3倍という軽いものが存在します。軽い白色矮星になるには恒星も軽くなければなりませんが、軽い恒星ほど寿命が長くなります。そのような恒星は水素を燃やし尽くすのに現在の宇宙の年齢以上の時間がかかるため、ここまで軽い白色矮星はまだ存在するはずがないのです。
(※チャンドラセカール限界質量。連星系でペアを組む恒星から奪ったガスなどによりこの質量を超えると、Ia型の超新星爆発が生じる)
■連星を組む相手にガスを奪われれば存在もあり得る
そこで提案されたのが、連星系における相互作用です。恒星どうしがかなり近付く連星系において、片方の恒星がもう片方からガスを奪い取ってしまうことで、現在の宇宙の年齢でも軽い白色矮星が誕生する可能性が示されたのです。
今回増田氏らの研究チームが発見した連星系「KIC 8145411」の白色矮星も、こうして誕生したと見られています。その質量は太陽の0.2倍で、ペアを組む恒星をおよそ450日周期で公転しています。
研究に利用されたのはケプラーの観測データです。数多くの系外惑星を発見したことで知られるケプラーは、系外惑星が主星(恒星)の手前を横切る(トランジット)ときに生じるわずかな減光をキャッチするために開発されました。
ところが、KIC 8145411では惑星ではなく高密度の白色矮星が周回しているため、トランジット時には白色矮星の重力レンズ効果によって光が集められ、系外惑星のトランジットとは逆に主星が増光します。このような連星系は5つしか知られていません。
■「主星から遠すぎる」という新たな謎も
ただし、KIC 8145411は新たな謎をもたらしました。白色矮星は主星に対しておよそ1.3天文単位の距離(軌道長半径。1天文単位は太陽と地球の平均間隔が由来)を周回していますが、これは「連星系の相互作用によって軽い白色矮星が誕生する」という理論で想定されていた軌道より10倍も離れていたのです。
研究チームは、今回の発見は氷山の一角であると指摘しており、さらなる発見によって新たに浮上した謎の解明につなげていきたいとしています。
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
[https://aasnova.org/2019/08/07/an-impossible-white-dwarf-identified-in-kepler-data/]
文/松村武宏