国立天文台は7月24日、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を使った観測によって、恒星が誕生するのに必要な高密度ガス雲が非常に少ないことが判明したと発表しました。
銀河には「分子雲」と呼ばれるガスの雲(集まり)があちこちに存在しています。ガス雲の密度は一定ではなく、密度の低い場所と高い場所が入り混じっています。高密度のガス雲はやがて星形成領域となり、ここから新しい恒星が誕生することになります。
しかし、従来の分子雲に関する観測結果と、実際に恒星が誕生しているペースを比較すると、恒星は予想の1000分の1しか生まれていないことがすでにわかっています。国立天文台の鳥居和史氏をはじめとした研究チームはこの謎を解くために、国立天文台野辺山の45m電波望遠鏡を使ったプロジェクト「FUGIN(風神)」のデータに注目しました。
FUGINプロジェクトの観測対象は、ずばり天の川銀河の分子雲です。同プロジェクトでは45m電波望遠鏡に取り付けられた新しい観測装置「FOREST」を使って、密度の異なる分子雲が分布する様子を2014年から広範囲に渡って観測しています。
今回、研究チームはFUGINプロジェクトによって蓄積された分子雲のビッグデータを解析することで、天の川銀河の分子雲における低密度ガスと高密度ガスの分布状況を調べました。その結果、分子雲全体のうち高密度ガスが占める割合がわずか3パーセントでしかないことを突き止めたのです。
こちらが、FUGINプロジェクトによって捉えられた天の川銀河の一部におけるガス雲の分布状況。低密度ガス(赤)と高密度ガス(青)を比べると、高密度ガスが圧倒的に少ないことがわかります。
やがて集まって高密度ガスだけになってしまうと考えられていた分子雲が、実際には何らかの理由で高密度ガスにはならず、ほとんどが低密度ガスのままで存在している……。誕生する恒星の数が少ないことの理由にもつながる発見ですが、何がガス雲の高密度化を阻害しているのかについては未だ謎のままです。
研究チームは今後もFUGINのデータ解析を継続し、星形成の謎や、高密度ガス雲の形成を阻害する原因に迫りたいとしています。
Image Credit: 国立天文台
https://www.nro.nao.ac.jp/news/2019/0724-torii.html
文/松村武宏