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2014年9月おおぐま座の方向およそ5億光年先に1つの超新星爆発が見つかりました。発見直後の解析では、この超新星爆発は最大の明るさが100日程度続き、その後に暗くなっていく「II-P型」に分類されるものと考えられていました。

その後も観測は続けられましたが、どういうわけかこの超新星は100日を過ぎても暗くなりません。それどころか明るくなったり暗くなったりを何度も繰り返し、最終的に発見から600日ほども輝き続けたのです。

爆発によって死んだはずの恒星が、何度もよみがえって輝き続ける……「iPTF14hls」と名付けられたこの超新星は、そのふるまいから別名「Zombie Star(ゾンビ星)」とも呼ばれています。

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この不気味な二つ名を持つ超新星爆発の正体に迫る研究が、アメリカ天文学会によって紹介されていました。

今回、Alejandro Vigna-Gómez氏らの研究チームは、太陽の数十倍もの重さを持つ恒星が起こす「対不安定型超新星」という激しい超新星爆発のなかでも、「脈動性対不安定型超新星」と呼ばれる爆発現象が発生するメカニズムについて検討を行いました。研究結果は論文にまとめられ、5月9日付でThe Astrophysical Journal Lettersに掲載されています。

発表によると、巨大な恒星の内部では、高エネルギーのガンマ線によって電子と陽電子の対生成という現象が起きていると考えられています。この現象が継続すると恒星は不安定になり、やがて自身の重力によって崩壊、爆発に至ります。これが「対不安定型超新星」です。

対不安定型超新星では、一度の大爆発ですべてが吹き飛んでしまうこともあれば、恒星の質量が一部だけ失われる爆発を繰り返すこともあるとされています。この小規模な爆発を繰り返すものが、「脈動性対不安定型超新星」と呼ばれています。

今回の研究では、脈動性の対不安定型超新星を引き起こす恒星の正体に迫っています。それによると、従来から予想されてきた「太陽の100倍近い質量を持つ巨大な恒星が爆発する」ケースとは別に、「太陽の60倍程度の質量を持つ2つの大きな恒星が合体し、その後に爆発する」ケースも考えられるとされています。

前者の場合は恒星が爆発するまでに水素を使い果たしてしまいますが、後者の場合は合体によって水素の比率が多くなることから恒星が爆発した時点でも水素がまだ残っているので、爆発を観測すると水素の痕跡が見つかるはずだと結論付けられています。この「脈動性対不安定型超新星で水素が見つかってもおかしくない」というのが、今回の研究におけるポイントです。

冒頭で紹介したゾンビ星ことiPTF14hlsは、何度も繰り返し明るさのピークを迎えたその様子から、脈動性対不安定型超新星の実例だと考えられています。ところが観測結果からは水素の存在が確認されており、従来予想されていた「1つの巨大な恒星」が爆発したケースでは、うまく説明が付かずにいました

しかし、今回の研究で指摘された「合体した大質量星」が正体であれば、水素が存在していてもおかしくありません。予想の6倍に渡り輝き続けたゾンビ星の正体は、かつての連星が合体してできた恒星だった可能性が高まったのです。

iPTF14hlsの明るさが変化した様子(黄色)と、通常の超新星爆発における明るさの変化(水色)。普通の超新星爆発ではないことが明らか(Credit: Las Cumbres Observatory/S. Wilkinson)

ただ、iPTF14hlsが本当に脈動性対不安定型超新星であったのかどうか、決定的な証拠はありません。その謎を解き明かすためには、同じように死と復活を繰り返すゾンビ星をさらに発見し、観測例を増やしていかなければならないでしょう……。

 

Image Credit: ESO/M. Kornmesser
[https://aasnova.org/2019/07/17/exploring-an-odd-stellar-death/] 文/松村武宏

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