「ろくぶんぎ座」で大量の超新星を観測。半年で1800個、1日10個ほど

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の安田直樹氏を中心とする研究チームは、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」に搭載されている「超広視野主焦点カメラ(HSC)」を使った半年間の観測で、大量の超新星を発見することに成功したと発表しました。

こちらの比較画像は、今回観測された超新星のごく一部。画像は横に並んだ3枚が1組になっていて、左右2列にそれぞれ4段ずつ、合計8個の超新星が並んでいます。内容は、左が「爆発前」中央が「爆発後」の画像で、右は爆発前後の画像を比較して求められた「超新星の様子」を示したものです。

すばる望遠鏡が向けられたのは「ろくぶんぎ座」の方向です。研究チームは2016年11月から2017年4月までの半年間HSCの視野を5つ並べた範囲を繰り返し観測し続けました。見つかった超新星の数は、なんと約1800個単純計算で1日10個ほどの超新星爆発を捉えたことになります。

下の画像は、HSCによる観測範囲(青い円1つがHSCの視野)と発見された超新星(赤い点)を示したもの。サイズを比較するため、右上に満月の写真が合成されています。地球から見える空全体からすれば限られた範囲であるにもかかわらず、半年でこれほど大量の超新星が起きているところに、改めて宇宙の途方もないスケールを感じます。

HSCの観測範囲(青い円1つが視野1つ分)と超新星の位置(赤い点)(Credit: Kavli IPMU, Partial data supplied by: SDSS)

特に注目すべきは「Ia型超新星」の大量発見です。超新星にも幾つかの種類がありますが、Ia型超新星は連星で起こる現象で、赤色巨星などの伴星から流れ込んだ物質が主星である白色矮星に集まり、その質量が「チャンドラセカール限界」という白色矮星の限界値に達したときに発生するとされています。

このIa型超新星には「どの超新星も絶対等級(実際の明るさ)がほとんど同じ」という特徴があります。見かけの明るさと実際の明るさを比較すると距離を求めることができるため、Ia型超新星は宇宙の距離を測定するのにうってつけの現象なのです。そのため、Ia型超新星は「宇宙の灯台」と呼ばれることもあります。

今回の観測で見つかった超新星のうち、約400個がIa型超新星でした。このうち58個は、およそ80億光年よりも遠くの宇宙にあることがわかっています。今回得られたIa型超新星の観測データは、より正確な宇宙の加速膨張の値(ハッブル定数)を求める研究などに活用される予定となっています。

Ia型超新星を引き起こす白色矮星(右)と赤色巨星(左)からなる連星系の想像図(Credit: European Space Agency and Justyn R. Maund (University of Cambridge))

80億光年以遠のIa型超新星は、これまで「ハッブル」宇宙望遠鏡が過去10年間で発見した50個弱ほどしか知られていなかったといいます。夜空の広い範囲を一度に観測できるすばる望遠鏡のHSCは、ハッブル宇宙望遠鏡の20倍以上というハイペースで、遠い宇宙のIa型超新星を発見したことになるわけです。

広範囲を一度に観測するといえば、完成する前の段階で小惑星や超新星を発見している東京大学木曽観測所の超広視野高速カメラ「Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)」が思い出されます。「広い範囲を一度に見る」能力を獲得した天体望遠鏡によって、観測例の少なかった天体や天文現象が大量発見される時代が訪れています。

 

Image credit: N. Yasuda et al.
https://subarutelescope.org/Pressrelease/2019/05/29/j_index.html
文/松村武宏