2018年12月にNASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」が到着した小惑星「ベンヌ」。ベンヌではその表面から粒子が放出される様子がオシリス・レックスによって観測されていますが、その原因に迫った研究成果が発表されました。
■流星体の衝突、熱による岩石の破壊、水蒸気の噴出のいずれかが原因か
2018年12月31日にベンヌの周回軌道へと入ったオシリス・レックスによって、翌2019年1月6日にベンヌから粒子が放出されている様子が初めて撮影されました。同様の粒子の放出は1月19日と2月11日にも観測されていて、いずれも4.3時間周期で自転30するベンヌの「午後遅く」、すなわち太陽に照らされた昼側から夜側に移りつつある表面で発生しました。
最大規模の放出は最初に捉えられた1月6日のもので、この時はおよそ200個の粒子が放出されています。粒子のサイズは1~10cm未満で、速度は最大で秒速3mほどに達したとみられています。その一部は宇宙空間へと脱出し、残りは再びベンヌの表面へと戻っていきました。なお、この粒子の放出はオシリス・レックスにリスクを及ぼすものではないと判断されています。
オシリス・レックスのミッションを率いるDante Lauretta氏(アリゾナ大学)らの研究チームは、ベンヌからどのようにして粒子が放出されたのかを検討し、その原因を3つに絞り込みました。
1つ目は「流星体の衝突」です。惑星間の宇宙空間には非常に小さな粒子が無数に存在しており、地球の大気圏に突入したものは流星として観測されます。大気を持たないベンヌの場合は小さな粒子でも表面に衝突することができるため、その衝撃でベンヌ表面の微細な粒子が舞い上がった可能性があります。
2つ目は「熱による岩石の破壊」です。一見堅牢な岩も加熱と冷却が繰り返されることでその一部がひびわれ砕けることがあり、小惑星の表面に見られるレゴリス(細かな塵や砂塵の集まり)はこうした熱疲労による風化作用で生成されたとする説があります。ベンヌで観測された粒子の放出も、この過程で砕けた岩の一部だったのではないかというのです。
そして3つ目は「水蒸気の噴出」です。ベンヌではすでに水酸基の形で水を含んだ粘土鉱物の存在が確認されていますが、研究では、この粘土鉱物が温められて水が噴出する際に粒子が放出された可能性があるとしています。太陽光に温められたことによる現象という意味では、2つ目に挙げた原因と共通しています。
■持ち帰られたサンプルから粒子放出の謎が解けるかも?
3回観測された粒子の放出はすべてベンヌの夕方……つまりベンヌの昼側でも太陽に一番温められ続けた場所で起きているため、熱による岩石の破壊や水蒸気の噴出を示唆している可能性があります。流星体が衝突する様子は確認されていませんが、サイズが小さく高速で突入した流星体がオシリス・レックスの観測機器に捉えられていないだけかもしれません。
流星体の衝突や熱による岩石の破壊が原因だった場合、同じような粒子の放出が他の小惑星でも発生している可能性があります。いっぽう、水蒸気の噴出が主な原因だとすれば、ベンヌのように含水鉱物が豊富な小惑星でないと粒子の放出が起きない可能性があります。
また、原因はただ一つではなく、複数の要因が関わっていることも考えられます。研究に参加したSteve Chesley氏(NASA・ジェット推進研究所)が指摘するように、熱疲労で砕けた岩の破片が流星体の衝突で舞い上がったのかもしれません。
粒子放出の原因をめぐる謎は、オシリス・レックスによるサンプル採取が成功し、地球に持ち帰られることで解けるかもしれません。宇宙空間へと脱出せずに再びベンヌの表面へと戻った粒子が、サンプルに含まれている可能性があるからです。
持ち帰られたサンプルのなかから「一度ベンヌを離れて再び戻った粒子」を見つけ出すことは難しいかもしれませんが、サンプルによって小惑星の理解が深まることは間違いありません。オシリス・レックスによるサンプル採取は2020年の夏、サンプルが地球に到着するのは2023年9月の予定です。サンプル採取を実施する場所は、近日中に発表されることになっています。
Image Credit: NASA/Goddard/University of Arizona/Lockheed Martin
Source: NASA
文/松村武宏