存在するはずのない新種のブラックホールは、重力波の観測で裏付けられるか

天の川銀河に存在するブラックホールの多くは、重い恒星の超新星爆発時に誕生する「恒星ブラックホール(恒星質量ブラックホール)」とされています。今回、従来の予想よりもずっと重い恒星ブラックホールが見つかったとする研究成果が発表されました。

■1万5000光年先に太陽およそ70個分のブラックホールがあった

恒星ブラックホール「LB-1」(中央)と伴星(奥)の想像図(Credit: Jingchuan Yu / Beijing Planetarium)

天の川銀河には1億個ほどのブラックホールが存在するとみられています。太陽400万個分の重さを持つとされる超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」もそのうちの1つですが、大半は重い恒星が重力崩壊してできた恒星ブラックホールとされています。

今回、Jifeng Liu氏(中国科学院国家天文台)ら国際研究チームは、「ふたご座」の方向およそ1万5000光年先にある青白い恒星(※1)がふらつく様子を詳細に観測することで、この恒星が太陽68個分(※2)の質量を持つ恒星ブラックホールとペアを組んだ連星であることを突き止めました。

「LB-1」と呼ばれるこのブラックホールの観測結果は、意外なものでした。恒星ブラックホールに関する理論では、質量の上限が太陽50個分前後とされていたからです。研究チームが伴星の組成を分析したところ、水素やヘリウムよりも重い元素の割合が太陽より2割多いこともわかりました。ブラックホールになった恒星の組成も同様だったと仮定すると、超新星爆発を起こす前に多くのガスを放出してしまうため、爆発にともない誕生するブラックホールがここまで重くなることはますます考えられないといいます。

観測に参加したW.M.ケック天文台の発表において、Liu氏は「(LB-1が)いかにして形成されたのか、その説明に挑まなければならない」とコメントしています。

※1…太陽およそ8個分の質量を持ったB型の準巨星
※2…誤差を考慮すれば55~79個分

■重力波望遠鏡の観測結果とも矛盾しない

別のアングルを描いた想像図。伴星(手前)はおよそ79日の周期でLB-1(奥)を周回している (Credit: Jingchuan Yu / Beijing Planetarium)

これまでに知られている恒星ブラックホールの多くは、別の恒星を伴星とした連星を成しているとみられています。伴星から流れ込んだガスによって形成された降着円盤が発するX線を観測することで、間接的にブラックホールが見つかってきたからです。

いっぽう、Liu氏らはX線ではなく、伴星のふらつきを利用する「視線速度法」でブラックホールを捜索しました。視線速度法では連星として互いに公転する恒星が前後左右へと円を描くようにわずかにふらつく様子をキャッチすることで、間接的にブラックホールの質量を求めることができます。

今回判明した太陽およそ70個分という質量は、ここ数年の間に重力波望遠鏡「LIGO」「Virgo」によって観測されてきた、ブラックホールどうしの合体にともなう重力波の観測結果とも矛盾しません。X線の観測によって見つかってきた恒星ブラックホールの質量は太陽30個分未満でしたが、重力波で合体がキャッチされた恒星ブラックホールのなかには、これより重いものも含まれていたのです。

LIGOのディレクターであるDavid Reitze氏(フロリダ大学)は今回の研究成果を受けて「恒星ブラックホールの形成モデルは再検討を余儀なくされるだろう」と語りますが、今回の研究成果には懐疑的な意見も寄せられています。答えにたどり着くにはさらなる観測と研究が必要のようです。

 

Image: Jingchuan Yu / Beijing Planetarium
http://www.keckobservatory.org/lb-1/
https://www.skyandtelescope.com/astronomy-news/heavyweight-black-hole-find-mystifies-astronomers/
文/松村武宏