近年、地球の生命にとって欠かせない水や有機物は、隕石とともに地球にもたらされたのではないかと考えられています。今回、隕石のなかから地球の生命にとって欠かせない「糖」が見つかったとする研究成果が発表されました。
■2つの隕石から地球の生命に必須の糖を検出
地球に落下した隕石の一部には水や有機物が含まれていて、生命の材料であるアミノ酸や塩基が見つかることがあります。今回、古川善博氏(東北大学)らは、アミノ酸や塩基と同様に生命にとって欠かせない「糖」を検出するべく隕石の分析を試みました。
研究チームが地球に落下した3つの隕石について調べた結果、「マーチソン隕石」(1969年にオーストラリアへ落下)と「NWA801」の2つの隕石から、リボース、アラビノース、キシロースといった糖を検出することに成功しました。
このうちリボースは、核酸の一種であるリボ核酸(RNA)を構成する糖の一種です。RNAはデオキシリボ核酸(DNA)の情報をもとにタンパク質が作られる上で重要な役割を担っており、リボースは地球の生命にとって欠かせない糖と言えます。従来の隕石を扱った研究でも糖の一種(ジヒドロキシアセトン)は見つかっていましたが、リボースのように生命に必須の糖が見つかったのは今回が初めてです。
今回の発見によって、初期の地球における生命の材料が宇宙からもたらされた可能性が高まりました。なお、検出された糖に含まれる炭素の同位体比を調べたところ、落下後に地上で混入したものではなく、宇宙に由来する糖であることも確認されています。
■RNAが先行していたとする説を支持する発見か
現在の地球の生命はDNAとタンパク質を中心としたシステムの上に成り立っていますが、最初期の生命ではRNAが中心的な役割を担っていたとされています。誕生して間もない地球に落下した隕石がもたらした水によって海が作られたように、隕石によってもたらされた有機物から、RNAを中心とした最初の生命が誕生したというわけです。
今回の研究は、この「RNAワールド」と呼ばれる仮設にとって重要なものとなりました。というのも、今回の分析では、DNAを構成する糖の一種であるデオキシリボースが検出されなかったからです。
たまたまデオキシリボースが見つからなかったという可能性もありますが、DNAに必須の糖は検出されず、RNAに必須の糖が見つかったという事実は、「最初にRNAを中心とする生命が誕生した」とするRNAワールド仮設を支持するものとなります。
研究チームは今後、NASAから提供された別の隕石を分析することで、宇宙から地球にもたらされた糖についてより詳しく調べていく予定です。
Image: Yoshihiro FURUKAWA
Source: 東北大学 - NASA
文/松村武宏