FASTだけじゃない、まだある中国のBIGな天文施設

中国貴州省で建設が進んでいる超大型電波望遠鏡、FAST(500メートル球面電波望遠鏡)。主鏡を構成するのは4450枚の三角形状のパネルですが、その最後の一枚が7月3日に設置され、基本工事が完了しました(参考:「宇宙人探査も可能。世界最大の電波望遠鏡「FAST」が中国で完成」)。カルスト地形を利用した同方式の構造物としては、プエルトリコにあるアレシボ天文台の305mを抜いて世界一という事もあり、中国では高い関心が寄せられています。最後の設置工事のもようは、中国中央電視台(CCTV)のニュースチャンネルで生中継されました。

新疆:世界最大級、口径110メートルの電波望遠鏡

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その大きさが注目されがちなFASTですが、実は中国ではFASTの他にも大型天文施設の建設計画が進んでいます。新疆ウイグル自治区奇台県では、FASTのような窪地を利用した固定式ではなく、口径110メートル級のパラボラアンテナ式による電波望遠鏡を建てる計画があり、地名から名前をとってQTT(QiTai Radio Telescope)と呼ばれています。QTT計画は、建設地が決まって、現在はまだ技術検討の段階ですが、完成すれば米グリーンバンク望遠鏡に並ぶサイズの電波望遠鏡になる予定です。

上海:郊外で運用中、アジア最大の電波望遠鏡

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QTTはまだ計画中ですが、現時点でアジア最大の電波望遠鏡が、上海で運用されています。上海市郊外にある直径65メートルの電波望遠鏡、天馬望遠鏡は宇宙観測のほか、宇宙探査機の通信用にも運用されています。日本最大の直径64メートルを誇る臼田宇宙空間観測所にあるパラボラアンテナは、小惑星探査機「はやぶさ」の通信用に運用されたことで有名ですが、この天馬望遠鏡も同じように、月探査機「嫦娥二号」が行った小惑星トータティスへのフライバイや「嫦娥三号」の月着陸成功を地上から支えました。

内モンゴル:パラボラ100基並べて太陽を観測

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観測機器そのものの大きさではなく、広大な土地柄を活かした天文施設もあります。内モンゴル自治区正ジョウ旗明安図では、約3.8ヘクタールの敷地に直径4.5メートルのパラボラ40基、2メートルのパラボラ60基で構成される電波ヘリオグラフという太陽観測施設が建てられました。2009年に計画がスタートし、ファーストライトを迎えたのが2013年1月。同年末に施設としては竣工していましたが、今年7月に正式な検査、引き渡しが完了しました。これからの本格運用とその成果に期待が寄せられています。

ちなみに長野県の野辺山でも、ほぼ同規模の敷地に直径80センチメートルのパラボラ84台を並べた電波ヘリオグラフや、太陽から発せられる電波の強度・偏波を観測する太陽電波強度偏波計が稼働しています。直径45メートルの電波望遠鏡もありますので、天体観測施設の大きさや研究内容に興味のある方は、機会があれば野辺山宇宙電波観測所を見学してみてはいかがでしょうか。

チベット:日中協力、標高4000メートル超で宇宙線を捉えます

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チベット・ラサの北側に位置する標高4300メートルの羊八井に、日本と共同で建設された宇宙線観測施設があります。羊八井国際宇宙観測所は1990年に初期設備が完成し、大気圏に飛び込んできた宇宙線が引き起こす「空気シャワー」の観測実験を日中共同で行っています。98年にはイタリアが参加、同地域に敷設面積6700平方メートルに及ぶ新たな観測設備を設置して、宇宙線観測に取り組んでいます。

四川:高海抜宇宙線観測所をさらに建設

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チベットの羊八井国際宇宙観測所の他にも、高海抜地帯で宇宙線を観測する計画が進んでいます。四川省稲城県海子山に建設予定の宇宙線観測所LHAASO(Large High Air Altitude Shower Observatory)と呼ばれる計画です。羊八井と同様、平均標高4000メートルを超える高地に水チェレンコフ観測装置や空気シャワー観測装置などを配備し、宇宙線の研究を進めようというものです。計画は2015年末に承認されており、16年7月から基礎インフラの建設を開始しています。

LIGOの重力波観測成功で重力波天文学がホットな分野になってきましたが、重力波源の特定には重力波だけでなくガンマ線観測も必要であるなど、ガンマ線天文学が解明できる宇宙の謎もまだたくさんあります。こうした研究を支える重要な施設が羊八井やLHAASOになっていくのでしょう。

「宇宙強国」は実用技術だけじゃなく、科学面にも注力

中国ではいま「宇宙強国」政策を強く押し出していますが、これまでは気象衛星、通信衛星、測位衛星などの実用型衛星網構築と、それに連動した地上設備の建設や普及が主流でした。一方で、科学探査は自国の観測施設だけでは不十分な状態で、長期にわたって海外の施設を「間借り」したり、海外の観測データを参考にして研究を進めざるをえませんでした。

そうした状況も、近年急速に変わりつつあります。既存の天文施設でも機器をアップデートしてより精度な観測が行えるようになったり、宇宙から直接観測する天文衛星の打上げにも注力するようになりました。2015年12月に打ち上げられた暗黒物質探査衛星DAMPE(愛称「悟空」)を皮切りに、今年後半には硬X線モジュレーション衛星HXMTが、来年には月探査衛星「嫦娥五号」が打上げを控えています。新たに承認された計画もすでに複数あり、今後数年にも打ち上げられる予定で、中国の宇宙探査分野は厚みを増しつつあります。
日本にもスーパーカミオカンデや先ほど触れた野辺山宇宙観測所、ハワイのすばる望遠鏡などの大型施設を運用し、観測データから生まれた優れた論文も多数あります。また、天文衛星もこれまで何度も打ち上げてきており、大きな成果を上げてきました。X線天文衛星ひとみ(ASTRO-H)は短命に終わってしまいましたが、新たに後継機開発が検討されているとの情報もあり(参考:「X線天文衛星「ひとみ」復活か、後継機の検討を報告」)、頑張ってほしいところです。

Image Credit: The Chinese Academy of Sciences

Last Updated on 2024/09/02