乾電池で10km飛行に挑む!元”鳥人間”が見たエボルタチャレンジ2016(前編)

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今月6日に琵琶湖で行われたエボルタ有人飛行チャレンジ。東海大学人力飛行機チーム「TUMPA(ツンパ)」が製作した機体を乾電池動力のみで10km飛行させ、ギネス記録達成を目指すというものでした。

強風により中止となった3日も含め両日現地でその模様を取材してきました。人力飛行機サークルの元製作者である私が見た、エボルタチャレンジの様子を伝えます。

チャレンジまでのいばらの道のり~“未知”に挑んだ彼らの苦悩~

今回のチャレンジに挑戦した東海大学人力飛行機チームTUMPAは、読売テレビ主催「鳥人間コンテスト(以下鳥コン)」のタイムトライアル部門に何度も出場経験があり、機体製作・運用に関して実績のあるチームです。そんな彼らが今回のチャレンジを受け、本格的に機体製作を始めたのはなんと8月、本番3ヶ月前のことでした。

通常鳥コン出場を目指す場合、各チームは機体を前年の8月から5月まで、約10ヶ月かけて製作します。そして残り2ヶ月で試験飛行を繰り返して調整し本番を迎えるのです。しかし彼らの本番は11月3日。手を抜かず、精度を維持し、でも3ヶ月で機体製作と試験飛行をクリアする。さすがに製作に機械を一部導入したとメンバーは笑っていましたが、人力飛行機経験者の私はその過酷さがもはや想像できませんでした。

また本部の予備機を作ってほしいという要請により3ヶ月で2機製作・運用という超過密スケジュールが組まれます。TUMPAの色々な未知との戦いが始まったのでした。

チャレンジ成功へ!機体を改良せよ~エンジニアたちの挑戦~

電池で有人飛行機を飛ばす。この挑戦にあたってTUMPAは自分たちの従来の設計・製作を改良し、全てを一から作り直していきました。

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組み立て中の機体。主翼にはカバーが

まずパイロットだけでなく、電池とモーターの重さが総重量に加わり必要揚力が増えるため、主翼は前後の幅も横方向の長さも大きくなりました。それにより主翼分割数も9分割に増やしたそうです(人力飛行機の主翼は巨大なため、製作・運搬がしやすいように組み立て・解体できる仕様になっています)。また、主翼の後縁(翼型の後ろ側の縁の部分)には、高価なロハセルという材料を用いて硬く美しくこだわったとのこと。確かに後縁まできれいに作られた主翼は美しいです。そして、美しい機体は飛ぶのです。

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青い部分が主翼の断面。これが揚力を生みだす

尾翼の操作は、ワイヤーによる人力操作と電気操作を組み合わせた形になっていたものを、ワイヤーのみで動かす形に変更しました。これは長時間飛行での信頼性の向上を図ったのと、パイロットが足で漕がないためスペースに余裕ができて、繊細な操縦ができる人力操舵の操縦桿を採用できたとのことです。

またカウル(頭や胴体部分のまわり)は発泡スチロールを手作業で削りだして作られていますが、今回はパイロットがペダルを漕がないためより抵抗が減るよう姿勢を寝そべる形にし、それに合わせて新しく設計し直しました。この設計を担当した2年生の岩崎さんは、パイロットの限界の体勢を調べて設計し、カウルの最大高さを約30㎝も下げることに成功したそうです。そしてTUMPAの機体の特長である「引き込み脚」。鳥コンでは飛び出しと同時に機体の脚が格納されるよう作られていますが、今回は脚部に電池が搭載されるため格納せず、脚用のフェアリングが新たに製作されています。

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胴体後部の内部。強度と軽量化のバランスに工夫が見える。部材はスタイロフォーム(建築用の断熱発泡スチロール材)

 

今回最大の変更となった駆動系は、電池BOXの作業など人力飛行機チームにとって慣れない工程は、同じ東海大学のソーラーカーチームの助けを得て乗り越えたそうです。本番当日も駆動や電装部に時間がかかっており、調整の大変さがうかがえました。

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コックピット内部で混み合う、操舵のワイヤーや電気配線などに苦労がにじむ

プロペラは設計を変えて2パターン作り、試験飛行をして良い方を選んだというこだわりぶり。人力飛行機とは回転数が段違いのため強度を高めるよう材質、製作法も工夫を重ねたとのこと。チャレンジ当日もぎりぎりまで磨き上げていたのが印象的でした。

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極寒の中最後までプロペラを磨き上げる。わずかな抗力も減らすため努力を重ねる

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プロペラ取り付け直後、調整確認中。プロペラ班以外の人が触ることは許されない

ちなみに今回のチャレンジのために製作された機体のスペックは以下の通りです。

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翼幅 約26,200mm
全高 約3,350mm
全長 約7,100mm
機体重量 約77kg
総重量 約130kg
機体材質 CFRP(炭素繊維強化プラスチック),発泡スチロール,木材(バルサ)等

 

現地で機体を見て、短い製作期間の中でもこだわって丁寧に作られていることがよく分かりました。「ベッドで寝たい」とこぼしていたメンバー。彼らの心血が注がれたその機体はどう飛んだのか。本番をメンバーと共に見つめたチャレンジ当日の記録、後編に続きます。

Image Credit: パナソニック、大貫剛、角谷杏季

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