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公転周期がわずかに短縮 NASA探査機「DART」の衝突は二重小惑星全体に影響していた

2022年9月、NASA(アメリカ航空宇宙局)のミッション「DART」の無人探査機が、小惑星「Didymos(ディディモス)」を公転する衛星「Dimorphos(ディモルフォス)」への衝突に成功しました。この衝突によって、Dimorphosの衛星としての公転周期は約33分短縮されたことがわかっています。

今回、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のRahil Makadiaさんたち研究チームは、DART探査機の衝突がDimorphosだけでなく、Didymosを含む系全体が太陽を公転する軌道にも変化をもたらしていたとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌Science Advancesに掲載されています。

衝突前にDART探査機から放出されたASI(イタリア宇宙機関)の小型探査機「LICIACube」によって撮影された、DART探査機のディモルフォス衝突時の様子(Credit: ASI/NASA)
【▲ 衝突前にDART探査機から放出されたASI(イタリア宇宙機関)の小型探査機「LICIACube」によって撮影された、DART探査機のディモルフォス衝突時の様子(Credit: ASI/NASA)】

衛星への衝突が二重小惑星系全体の軌道を変えた

NASAのDARTミッションは、将来地球に衝突するおそれのある小惑星の軌道を探査機の意図的な衝突によって変更する「キネティックインパクト」と呼ばれる技術を実証するために、プラネタリーディフェンス(※)の一環として行われました。

※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組み。惑星防衛、地球防衛とも。

Didymos(直径約800メートル)とDimorphos(170メートル)は、約770日周期の公転軌道(近日点:約1.01au、遠日点:約2.27au)で太陽を周回する二重小惑星です。DART探査機が衝突する前のDimorphosは、Didymosから約1.2km離れた軌道を約11時間55分周期で公転していましたが、日本時間2022年9月27日に実施された探査機の衝突によって公転周期が33分15秒短縮されたことが確認されています。

DARTのミッションを解説したイラスト(衝突実施前に作成されたもの)。DART探査機の衝突によって、Didymos(ディディモス)を公転するDimorphos(ディモルフォス)の軌道が変化し(白→青)、公転周期が約33分短縮されたことが確認されている(※天体や探査機などのスケールは実際とは異なります)(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)
【▲ DARTのミッションを解説したイラスト(衝突実施前に作成されたもの)。DART探査機の衝突によって、Didymos(ディディモス)を公転するDimorphos(ディモルフォス)の軌道が変化し(白→青)、公転周期が約33分短縮されたことが確認されている(※天体や探査機などのスケールは実際とは異なります)(Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)】

研究チームによると、DART探査機の衝突はDimorphosの衛星としての公転軌道だけでなく、太陽を周回する二重小惑星の系全体の公転軌道にも変化をもたらしました。衝突前と比べて二重小惑星系の公転周期は約0.15秒短くなり、公転軌道の軌道長半径(約1.64au)は約360m短縮されたことが今回明らかになったといいます。DidymosとDimorphosは重力で結びついているため、どちらか片方に生じた速度の変化はもう片方にも、言い換えれば二重小惑星の系全体にも波及するのです。

速度にして秒速約11.7μmの減少(公転する二重小惑星系の進行方向に対する速度の変化)という極めて小さな変化ですが、太陽を周回する天然の天体の公転軌道に対して、人工物が測定可能なレベルで変化を生じさせたのは、人類史上初めてのことだとNASAは述べています。

放出された破片が小惑星にもたらした「推進力」

探査機の衝突がこれほどの影響を及ぼした背景には、衝突時に宇宙空間へと放出された大量の岩石の破片(噴出物、イジェクタ)が関係しています。

研究チームによれば、探査機が衝突して破片が勢いよく放出されたことで、推進力のような効果が生じました。この効果は運動量増幅係数(β値)として示されますが、分析の結果、DART探査機衝突時の係数は約2.0と推定されています。

この値は、探査機本体の衝突による衝撃に加えて、破片の放出にともなう反動によって同等の推進力がさらに加わったことを意味しており、倍加された衝撃が軌道の変化に大きく寄与していた可能性を示唆するものです。

衝突前にDART探査機から放出されたASI(イタリア宇宙機関)の小型探査機「LICIACube」によって撮影された、DART探査機のディモルフォス衝突から約2分~3分後の様子を示したアニメーション画像。放出された破片の広がり方を立体的に捉えている(Credit: ASI/University of Maryland/Tony Farnham/Nathan Marder)
【▲ 衝突前にDART探査機から放出されたASI(イタリア宇宙機関)の小型探査機「LICIACube」によって撮影された、DART探査機のディモルフォス衝突から約2分~3分後の様子を示したアニメーション画像。放出された破片の広がり方を立体的に捉えている(Credit: ASI/University of Maryland/Tony Farnham/Nathan Marder)】

各地で実施された恒星食の観測が軌道変化の測定に貢献

この極めて小さな軌道の変化を測定するために、研究チームは「恒星食」を利用しました。

恒星食とは、惑星や小惑星が恒星の手前を横切る際に、星の光がほんの一瞬だけ遮られる現象です。別の言い方をすれば、遥か彼方の恒星の光によって生じた惑星や小惑星の影が地上に落ちる現象、と表現することもできます。

太陽が月に隠される日食と比べて、恒星食は観測の難易度が高い現象です。天文学者は小惑星が影を落とす正確な位置とタイミングを予測した上で、何kmも離れた複数の地点に観測装置を設置したり、世界各地の研究者やアマチュア天文家に観測を協力してもらうように要請する必要があります。

NASAのJPL(ジェット推進研究所)のSteve Chesleyさんによれば、2022年10月から2025年3月にかけて、DidymosとDimorphosの二重小惑星による恒星食が世界各地で合計22回観測されました。Chesleyさんは「長年の地上観測データと組み合わせることで、DARTがDidymosの軌道をどう変えたかを計算する鍵になりました。世界中の観測者の貢献がなければ、この結果は得られませんでした」と述べています。

今回の研究成果は、地球への天体衝突を防ぐ手段としてキネティックインパクトが有効であることを改めて証明するものとなりました。NASA本部のThomas Statlerさんは「軌道の変化はごくわずかですが、十分な時間があれば、このように小さな変化が大きな軌道変更へと成長する可能性があります」と述べています。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典