2019年に小惑星ベンヌへ接近、2023年にサンプルを持って地球に帰還

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小惑星ベンヌに近づくオシリス・レックス探査機の想像図 Photo: NASA/ASU

日本時間で9月9日(金)朝、アメリカ・フロリダ州のケープカナベラル空軍基地より、小惑星探査機「オシリス・レックス」が打ち上げられました。
オシリス・レックスは、日本では「日本版はやぶさ」というキャッチフレーズがつけられることが多いようです。はやぶさとは、そう、あの小惑星探査機「はやぶさ」です。2003年に打ち上げられ、小惑星イトカワに2005年にタッチダウン、そのサンプル(微粒子ですが)を手に、2010年に地球に帰還したことはまだ皆さんの記憶に残っているでしょう。

その「はやぶさ」、そして後継機として2014年末に打ち上げられた「はやぶさ2」と同じように、オシリス・レックスは小惑星からサンプルを持ち帰ることを目指しています。まるで「はやぶさ」をアメリカが真似をしたかのようですが、そうではないことは後でお話しましょう。

さて、まずこのオシリス・レックスがどのような探査なのかをざっと述べておきましょう。
オシリス・レックスが向かう小惑星は、「ベンヌ」と名づけられた小惑星です。イトカワと同じように、地球の近くを回る小惑星(地球近傍小惑星)です。
ベンヌに到着するのは2019年ころです。ここで約1年半にわたって、周辺の観測、そして最低3回のサンプル回収へのチャレンジを行います。
オシリス・レックスのサンプル回収方法は、「はやぶさ」や「はやぶさ2」とは若干異なります。「はやぶさ」シリーズでは、探査機から伸びた「サンプラーホーン」という筒を通って、上部から弾丸が発射され、小惑星表面に激突します。そして飛び散った破片は自然に上へと舞い上がってきますので、それをキャッチし、帰還カプセルへと押し込みます。
これに対して、オシリス・レックスでは、小惑星の表面にチッ素ガスを噴射し、舞い上がったチリを回収します。表面が固い岩だった場合には回収されるサンプルの量が減りますが、「はやぶさ」シリーズのように弾丸の数でサンプル採集回収へのチャレンジ回数が決まるということがないというのは利点です。

こうしてサンプルを回収したオシリス・レックスは、2023年、アメリカへ時間します。帰還先はアメリカ・ユタ州の砂漠が予定されています。足掛け7年にわたる長い旅ということになります。

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「オシリス・レックス」の名に込められた深い意味

オシリス・レックスは、英語で書くと「OSIRIS-REx」というつづりになります。このつづりを直訳しますと、「小惑星の起源・スペクトルの解釈・資源同定・安全・レゴリス探査機」の英語の頭文字になります。実際のところずいぶん強引にエジプトの神様「オシリス」に当てはめたわけですが、このオシリス・レックスの名前に込められた意味には、非常に深いものがあります。

そもそも、私たちはなぜ小惑星を調べる、そしてサンプルを取ってこようとするのでしょうか。
小惑星は、太陽系が生まれた頃の物質がそのまま残っている場所といわれています。私たちの地球などの惑星(大きな天体)は、誕生後いったんほとんどまるごと溶けてしまっているため、当時の物質を探すことは不可能です。
これに対し、小惑星は太陽系誕生の頃からほとんど変わっていないといわれています。私たちの地球をはじめ、太陽系、そして惑星や衛星がどのように誕生したのかを知るためには、小惑星に行って、太陽系誕生の頃の「化石」を手に入れることが必要なのです。

しかし、小惑星を調べる意義は、それだけにとどまりません。
例えば、地球に小惑星が衝突する可能性を知ることは、私たち人類が存続していく上で極めて重要です。恐竜を絶滅に追い込んだ6500万年前のような衝突が、もう二度と起きないという保証はありません。地球にぶつかりそうな小惑星の軌道を調べ、それがどのような構造をしているのかを知り、しっかりと追跡していくことが重要です。将来的には、ぶつかるとわかったら軌道を変えてしまうということも考えられるでしょう。これが、オシリス・レックスの名前にある「安全」につながるのです。
さらに、この後に述べますが、小惑星で資源を採掘するという動きが、にわかに注目を浴びているのです。これもまた、私たち人類の文明を大きく変えることになるかもしれません。

アメリカが小惑星探査に力を入れ始めた

オシレス・レックスの計画がスタートしたのは2004年です。ちょうど、「はやぶさ」が打ち上げられた後です。「はやぶさ」の成功をみて、アメリカでもぜひ、という発想が生まれたのは自然なことでしょう。
また、アメリカは地球外物質のサンプルリターンを行ったことがあります。彗星から物質を採取して持ち帰った「スターダスト」という計画です。実は今回のオシリス・レックスでも、このスターダストでの経験が大いに生かされています。サンプル採集機構や帰還方法などはスターダストでの方法を参考にしています。

さらに、オシリス・レックスは、アメリカが計画する小惑星へのアプローチの第1弾に過ぎません。
2013年、NASAは小惑星探査の枠組み「小惑星イニシアチブ」を発表しました。この「イニシアチブ」という言葉も非常に意味深な言葉で、「主導権」「先制」といった意味があります。「アメリカが小惑星探査でも主導権を取り戻す」、そのような意味を言葉の奥に感じます。

小惑星イニシアチブは、大きく分けて2つの計画からなります。
1つは、小惑星からのサンプルリターン、「アーム」(ARM)と呼ばれる計画です。かつては小惑星を袋詰めにしてまるごと持ち帰る(!)という案が計画されていたのですが、現在ではもうちょっと穏当な案になっています。
まず無人探査機が小惑星へ向かい、表面の岩をロボットアームでつかみます。そしてそれをそのまま持ち上げて、岩をまるごと(それでもかなり大胆ですが)サンプルリターンしてきます。
無人探査機はこの岩を地球と月の間くらいのところまで持ってきます。ここで宇宙飛行士の出番です。地球から、現在開発中のオリオン宇宙船に乗った宇宙飛行士がこの無人探査機に近づいてドッキング、文字通り「有人小惑星探査」をやってのけるというわけです。

もう1つの構想は「小惑星グランドチャレンジ」と呼ばれるもので、地球に近づき、将来は衝突するかもしれない小惑星を、NASAの枠を超えてみんなで見張ろう、という計画です。大学や研究所だけではなく、アマチュア天文家などもネットワークに入れて、こういった小惑星の監視ネットワーク作りをしようというものです。ただ、将来的には、このような衝突が起きるとわかったとき、小惑星の軌道をずらすようなことも考えているようです。

小惑星の表面の様子がわからなければアーム計画は実現できません。そのためにはオシリス・レックスや「はやぶさ2」の経験やデータが必要です。
NASAはアームを「将来の有人火星探査計画に向けた宇宙飛行士の訓練ミッション」として位置づけようとしています。つまり、オシリス・レックスは、今やNASAが描く壮大な火星への道へも位置づけられ、またNASAの小惑星に向けた大胆なプロジェクトの先陣を切る意味も持っているわけです。その重要さは計り知れないものがあるでしょう。

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写真: 小惑星表面の岩をつかんで持ち上げようとするアーム探査機の想像図。Photo: NASA

小惑星=資源、という新しい切り口

さらに、アメリカは小惑星を将来的な資源として活用しようという計画を持っています。それはNASAではなく、民間ベンチャー企業です。

現在のところ、このようなベンチャー企業は2社あります。プラネタリーリソーシズ社と、ディープ・スペース・インダストリーズ社です。
両者とも小惑星へのアプローチは微妙に違いますが、基本的にはまず小惑星を観測して有望そうなものを絞りこみ、次に絞り込んだいくつかの小惑星に向け、より詳細な探査のために探査機を送り込みます。そして最終的に資源採掘を行う小惑星を決定すれば、そこに向けて採掘用の宇宙船を打ち上げ、商業的な採掘を実施しようというわけです。

「小惑星から資源を採掘して持ち帰る」などというと、まるで夢物語のように聞こえるかもしれません。実際、両社とも採掘はするものの、得られた資源は当面宇宙空間で使うと言明しています。地球に持ち帰るにはまだまだ輸送コストの問題が残っているのです。
ただ、逆にいいますと、そのコストの問題さえ解決すれば、私たちは小惑星からの資源を日常生活に利用する時代に突入するかもしれません。スペースX社が構想している再利用型ロケットや、着実に研究が進む宇宙エレベーターなど、宇宙輸送のコストダウンの試みは続いています。突如としてコストダウンが起こり、それが世の中を変えることにつながるかもしれないのです。

このような民間レベルの動きを、政府レベルでも後押ししようという動きがあります。アメリカ政府は2015年に新たな法律を制定し、アメリカの民間企業が小惑星に資源に対して所有権を持つことを認めました(小惑星そのものではないことに注意する必要があります)。NASAはこれらベンチャー企業に、小惑星探査の数々の研究開発を発注し、技術的な後押しをしています。
さらに今年2月、ヨーロッパの小国、ルクセンブルクの政府が、小惑星資源採掘に関して政府として支援すると発表しました。法律の整備や企業への融資などで、こういった企業をバックアップするというのです。その第1弾として、ディープ・スペース・インダストリーズ社がルクセンブルク政府の後押しを受け「プロスペクターX」という小惑星探査用の小型衛星を打ち上げると発表しました。
時代は着実に進んでいるのです。

小惑星の資源開発については、法律上問題があることは確かです。先ほど「小惑星を所有するのではなく、資源の利用権だけを認める」と書きましたが、これは宇宙条約という、宇宙開発全体を規定する枠組みの中で「天体を国家が所有することができない」という規定があることとギリギリで両立させる試みです。
ただ、アメリカやルクセンブルクが法律をどんどん認めてしまえば、いわば「早い者勝ち」で探査や資源採掘が進められてしまう恐れがあります。
せっかく小惑星探査で世界をリードしている日本がこの分野で後手に回るという可能性ももちろんありますし、そもそもルールがあってないような状態になってしまうという危険性も考えなければなりません。

オシリス・レックスの打ち上げは、単なる「小惑星からものを持ち帰る」ミッションの始まりではありません。それはアメリカが考える壮大な小惑星へのアプローチの始まりであり、さらにはこれから世界を変えていくかもしれない、小惑星資源採掘というSFのような話が現実になっていく大きな転換点になるかもしれないのです。

オサイレス・レックス (オシリス・レックス) – OSIRIS-REx(月探査ステーション)

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