Proton-M launches Inmarsat-5 F2
Image credit: Khrunichev
 インターナショナル・ローンチ・サーヴィシズ(ILS)社は2月1日、通信衛星インマルサット5 F2を搭載したプロトンM/ブリーズMロケットの打ち上げに成功した。今回のミッションはスーパーシンクロナス・トランスファー軌道という特殊な軌道への打ち上げで、総飛行時間は15時間31分にもわたった。
 ロケットは現地時間2015年2月1日18時31分(日本時間2015年2月1日21時31分)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地のLC-200/39を離昇した。ロケットは順調に飛行し、離昇から9分42分後に上段のブリーズMを分離した。そしてブリーズMはそこから5回に分けた燃焼をこなし、離昇から実に15時間31分後に、衛星を所定の軌道へと投入した。
 インマルサット5 F2は、英国ロンドンに本拠地を置くインマルサット社が運用する通信衛星で、同社のグローバル・エクスプレスと呼ばれる、Ka帯を用いた移動体向けに50Mbpsの高速通信サービスを提供するシステムの、全4機の衛星のうちの2機目となる。製造はボーイング・サテライト・システムズ社が担当した。打ち上げ時の質量は6,070kgの大型衛星で、89基のKa帯トランスポンダーを搭載。設計寿命は15年が予定されている。
 今回プロトンM/ブリーズMが、インマルサット5 F2を送り届けた先は、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道という、少し特殊な軌道であった。多くのロケットは静止衛星を打ち上げる際、静止トランスファー軌道という、静止衛星の一つ前の軌道に送り届ける。静止トランスファー軌道は、遠地点(地球から最も遠い位置)が静止軌道の高度である36,000kmと同じだが、近地点(地球に最も近い位置)と、軌道傾斜角(赤道からの傾き)はずれていることが多く、そこから静止軌道に乗り移るには、人工衛星がスラスターを噴射するしかない。しかし、衛星にとって推進剤の残量は多ければ多いほど運用期間を延ばすことができるので、なるべく噴射を少なくしたいという事情がある。
 そこで使われるのがスーパーシンクロナス・トランスファー軌道で、通常の静止トランスファー軌道とは異なり、遠地点高度が36,000kmよりもはるかに高くなる軌道に衛星を乗せる。例えば今回のミッションでは、近地点高度4,341km、遠地点高度65,000km、軌道傾斜角26.75度という軌道に衛星を投入している。これにより、軌道傾斜角0度への変更が通常の静止トランスファー軌道から行うよりも少ない燃料で可能となる。
 ただ、飛行時間が今回のように非常に長くなるためロケット側に高い性能が求められること、また到達高度が高いことから飛行中の通信なども設備が整っている必要があるなどの制約もある。
 プロトンMロケットの打ち上げは今年初であった。またプロトン・シリーズの打ち上げは通算で402機目、プロトンMに限れば88機目となった。
 プロトンは1962年に開発が始まった。開発を指揮したのはヴラジーミル・ニコラーエヴィチ・チェローメイという人物だ。チェロメーイは1914年、帝政ロシアのシェドルツェ(現在のポーランドにあたる場所)で生まれ、1984年に亡くなっている。元は数学者だったが、その後設計者に転身し、第52設計局(OKB-52)で辣腕を振るう。巡航ミサイル、弾道ミサイル、宇宙開発の分野で活躍し、50年代から60年年代のソヴィエトの宇宙開発を率いていた、セルゲーイ・コロリョーフの最大のライヴァルとして君臨した。
 プロトンは当初2段式のロケットで、100メガトン級核弾頭を米国に撃ち込む大陸間弾道ミサイル(ICBM)としても使うことを目的としていたが、ICBM案は1965年に中止され、宇宙ロケットとして使用されることになった。そして1965年7月16日、初の打ち上げで科学衛星プロトン1を軌道に投入することに成功する。出自が出自だけに、プロトン1の質量は12.2tもある大型の衛星だった。
 また1964年には、主に軍用宇宙ステーションや有人の月ミッション用として、3段式版のプロトン開発も始まっており、またさらに4段式も、さらにはプロトン自身も改良型のプロトンKが造られた。そして1967年3月10日に4段式版のプロトンK/ブロークDが打ち上げられた。そして各種人工衛星の他、ソヴィエトの月探査機ゾーントやルナー、火星探査機マールスといった、月・惑星探査機の打ち上げでも活躍した。またこの4段目は、ブロークDMやDM-2やDM3、そしてブリーズMといった具合に進化を続ける。
 一方、3段式版プロトンKは1968年11月16日に初打ち上げが行われ、主にサリュートやミール、国際宇宙ステーションのモジュールの打ち上げで活躍した。
 2001年4月7日には、第1段エンジンと第3段エンジンを改良したプロトンMが登場し、ブロークDM-2、DM-03、そしてブリーズMを第4段に使用し、現在も活躍中だ。また90年代中ごろからは、米ロの企業が共同で立ち上げたILS社による商業打ち上げサーヴィスも始まり、かつて米国に核弾頭を撃ち込むために造られたロケットが、米国の通信衛星を打ち上げるといったことも始まった。
 だが、近年では打ち上げ失敗が増えており、ある関係者は「もはやプロトンに信頼性はないようなものだ」というほどの有様だ。プロトンは強大な打ち上げ能力を持ち、それに匹敵するライヴァルは欧州のアリアン5ぐらいしかないことから、大型の静止衛星の打ち上げなどでは高い需要を持っていたが、しかし商業打ち上げの受注は減少しつつあるのが実情だ。
 一方、プロトンMを製造しているフルーニチェフ社では、プロトンMを含めた、ロシアのいくつかのロケットを代替することを目指したアンガラの開発が進められており、今年12月23日には、プロトンMとほぼ同じ打ち上げ能力を持つバージョンの、アンガラA5の試験打ち上げに成功している。アンガラの運用が軌道に乗れば、2020年ごろにプロトンMを代替する予定となっている。
■ILS Proton | Inmarsat-5 F2 | Success | International Launch Services
http://www.ilslaunch.com/newsroom/news-releases/ils-proton-successfully-launches-inmarsat-5-f2-satellite-inmarsat-second-glob

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