アルマ望遠鏡で精密測定。算出されたブラックホールの質量は太陽の22.5億倍

アメリカ国立電波天文台(NRAO)は8月7日、銀河中心にある超大質量ブラックホールの質量を精密に測定したテキサスA&M大学のBenjamin Boizelle氏らによる研究内容を紹介しました。研究成果は論文にまとめられ、同日付でThe Astrophysical Journalに掲載されています。

超大質量ブラックホールを取り囲む降着円盤の想像図(Credit: NRAO/AUI/NSF)

■ブラックホールの質量を求めるために降着円盤を観測

各銀河の中心に存在するとされる超大質量ブラックホールの質量は、周囲の天体の動きを精密に観測することで間接的に算出できます。

たとえば天の川銀河の中心にある(と確実視されている)超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」の場合、ブラックホールの近くを周回する恒星「S0-2」(S2とも)などの動きを調べることで、太陽のおよそ400万倍の質量を持つと推定されています。

他の銀河に存在する超大質量ブラックホールでも同様の方法が利用できるものの、天の川銀河のように恒星1つだけの運動を識別することはできません。そこで研究チームは、高い解像度で電波観測が行える「アルマ」望遠鏡に着目しました。

ブラックホールに引き寄せられたガスや塵などの物質は、その周囲を高速で回転しながら取り囲む降着円盤を形成します。降着円盤に含まれる一酸化炭素から放たれた電波(サブミリ波)をアルマ望遠鏡で観測すると、ドップラー効果によって地球に向かって回転する部分からの電波は波長が短く地球から遠ざかる向きに回転する部分からの電波は波長が長くなります。

このような波長の違いを高解像度で受信し、降着円盤の回転速度を精密に測定することで、ブラックホールの質量を推定しようと試みたのです。

■算出されたブラックホールの質量は太陽22.5億個分!

観測対象となったのは、ポンプ座の方向およそ1億光年先にある楕円銀河「NGC 3258」です。この銀河の中心にある降着円盤はブラックホールにかなり近い部分まで精密に観測することができるため、Boizelle氏は「私たちが見つけたベストターゲットだ」と表現しています。

アルマ望遠鏡の観測データから降着円盤の回転速度を求めたところ、超大質量ブラックホールから500光年の外縁部分では時速100万kmですが、ブラックホールに近付くにつれて急激に速度が増していき、ブラックホールまで65光年の距離になると時速300万kmを超えることがわかりました。

降着円盤の回転速度から判明した超大質量ブラックホールの質量は、なんと太陽22.5億個分でした。なお、計算された質量の理論上の誤差は1パーセント未満とわずかですが、地球からNGC 3258までの距離がまだ正確には判明していないため、距離の不正確さによる誤差が12パーセント残されています。

楕円銀河NGC 3258の中心にある降着円盤をハッブル宇宙望遠鏡で撮影したもの(左の円内)と、アルマ望遠鏡で観測したもの(右の円内)

このように、降着円盤の高解像度観測によって超大質量ブラックホールの質量を精密に求めることは、銀河とブラックホール双方が歩んだ歴史を理解するのに役立つだろうとBoizelle氏は語っています。

ちなみに、地上からおよそ400kmの地球低軌道を飛行する国際宇宙ステーション(ISS)の速度は、時速約2万7700km。今回速度が測定されたブラックホールから65光年の至近距離を吸い込まれずに飛行するには、ISSの100倍以上もの速度が必要です。

 

※記事タイトルに誤りがありました。8/9に修正させていただきました。

 

関連:いて座A*

Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), B. Boizelle; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello; Hubble Space Telescope (NASA/ESA); Carnegie-Irvine Galaxy Survey
[https://public.nrao.edu/news/2019-alma-soi/] 文/松村武宏