いよいよその“影”を目にする時が来たのかもしれません。

国際的な天文観測プロジェクト「Event Horizon Telescope(EHT)」は4月1日、同月10日に本プロジェクト初となる観測成果の発表を予告しました。プロジェクト名が示すように、EHTが目指しているのはブラックホールの「事象の地平面(英:event horizon)」周辺の様子を高解像度で観測することです。

天体の質量によって生じる重力は、質量の大きさと中心からの距離(半径)に応じて変化します。重力加速度の単位として用いられる「G」は、地球の表面における重力をもとにしたもの。地球よりも小さく軽い月の表面では0.165Gとなります。

もしも質量が変わらずに半径だけが小さく、高密度な天体になったらどうなるでしょうか。天体の半径が小さくなればなるほど表面の重力もどんどん強くなり、やがて光でさえも天体の重力から逃れられなくなります。この「光が脱出できない半径」(天体によってその大きさは異なります)で描かれた架空の球体の表面が事象の地平面であり、その内側にあって決して見ることのできない天体こそが、ブラックホールなのです。

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ブラックホールを光(電磁波)によって直接観測することはできないため、これまではその周囲に形成される降着円盤が発する電磁波や、高密度の大質量天体でしか引き起こせないような天文現象を通して、ブラックホールの存在を推測することしかできませんでした。

先日も「すばる望遠鏡」約130億光年先という遠い宇宙に100個の超大質量ブラックホールを発見・再確認したことをお伝えしましたが、より厳密には「超大質量ブラックホールの存在を示すと考えられているクエーサー」を観測したものであって、ブラックホールそのものを捉えられてはいないのです。

このブラックホール特有の限界に挑戦しているのが、EHTです。ブラックホールそのものは見ることができなくても、事象の地平面から外側であれば、理論上は電磁波でも観測することが可能です。ブラックホールの極めて強い重力は周囲の電磁波の進行を大きくねじ曲げるため、ブラックホール周辺の降着円盤やジェットを背景に、ぽっかりと空いた事象の地平面の影を識別できると予想されています。

こちらの画像は、シミュレーションによって示された観測結果の想像図。ブラックホールによって遮られているはずの裏側からの電磁波がねじ曲げられて、事象の地平面を縁取って見えると予想されています。

ただし、事象の地平面を識別するには、極めて解像度の高い望遠鏡が必要です。そこでEHTでは、多数の望遠鏡を使って同じ天体を観測することで、1つの望遠鏡では決して見ることができない小さな範囲を高い解像度で撮影する「VLBI(超長基線電波干渉計)」という手法を活用して、天の川銀河楕円銀河「M87」の中心にある(とされている)超大質量ブラックホール周辺の観測に挑んでいます。

EHTに参加しているのは、日本の国立天文台が所有する電波望遠鏡や南米の「アルマ望遠鏡」など、世界中に存在する電波望遠鏡たち。国際協力に支えられている大プロジェクトが何を捉えたのか、4月10日の発表に注目です。

 

Image credit: D. Psaltis and A. Broderick. / Jean-Pierre Luminet
https://eventhorizontelescope.org/
文/松村武宏

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