こちらの画像は、はくちょう座の方向およそ8,000光年先「V404 Cygni」という連星を構成するブラックホールの想像図です。連星を成すもう一方の恒星(伴星)から流れ込んだ物質が、ブラックホールの周囲に降着円盤を形作っています。その中心付近からは、時折弾丸のようなプラズマのジェットも噴出しています。

1989年に初めて存在が確認されたV404 Cygniは、2015年にアウトバースト(天体が急激に明るくなる現象)を起こし、一時は観測できる高エネルギーのX線源としては全天で一番明るくなったほどでした。

今回、欧州宇宙機関(ESA)ガンマ線観測衛星「インテグラル」によって2015年のアウトバースト時に観測されたデータを解析したところ、降着円盤の最も内側の部分が、外側に対して傾いていることが判明しました。

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さきほどの想像図で説明すると、傾いていることがわかった降着円盤の内側の部分というのは、画像中央付近の水色の部分に相当します。その外側の紫色やオレンジ色の部分と比較すると、画像では左に傾いて描かれていますね。降着円盤の内側が傾いているのは、連星系の公転軌道に対して、ブラックホールの自転軸が傾いているからだと考えられています。

回転するブラックホールは、周囲の時空間を引きずるように自転しているとされます。伴星からブラックホールへと流れ込むガスや塵といった物質は、降着円盤の外側では連星系の公転面に沿う角度で回転していますが、ブラックホールの影響が強くなるところまで接近すると、その軌道はブラックホールの自転軸に従う角度へと傾いてしまうのです。

降着円盤の最奥部から噴き出すジェットの角度もブラックホールの自転軸に沿うため、連星系の軌道面からは傾くことになります。断続的に噴出されるジェットの向きを調べたところ、ブラックホールが1時間未満という非常に早い周期で歳差運動していることもわかりました。

歳差運動とは、斜めに回るコマのように、回転する物体の回転軸が傾きながら円を描くように振れていく動きのこと。歳差運動するブラックホールは過去に1つだけ見つかっていましたが、その周期は約6か月。1時間未満という周期で歳差運動するV404 Cygniのブラックホールとは全く異なる期間です。

こちらは、V404 Cygni全体の想像図。降着円盤の中心付近から、ブラックホールの歳差運動の影響を受けていろいろな角度に噴出されたジェットが描かれています。

ESAでインテグラルに携わるErik Kuulkers氏は「流れ込む物質と自転軸のズレによる影響は、他のブラックホールでも起こり得ます。観測結果を解釈する際には、噴き出すジェットの角度についても考慮しなければならないでしょう」と述べています。

 

Source

  • Image credit: ICRAR
  • ESA - Scientists get to the bottom of a ‘spitting’ black hole

文/松村武宏

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