JAXA新事業促進部長の岩本裕之氏(左)、Space BD社の永崎将利代表(右)によるトー クセッション。
 
2018年7月19日、東京・虎ノ門ヒルズ内の「Venture Cafe Tokyo」でJAXA「宇宙イノベー ションパートナーシップ(J-SPARC)」による宇宙ビジネスイベント「Space Business Night!」が開催された。JAXAからは新事業促進部長の岩本裕之氏、企業側からは、国際宇 宙ステーション日本実験棟「きぼう」から超小型衛星を軌道上に放出する事業を手がけるSpace BD社の永崎将利代表が登壇。トークセッションを行った。
 
J-SPARCとは、2018年春に開始されたJAXAによる民間事業者とのパートナーシップ型に よる事業創出プログラムだ。民間の持つ事業テーマを、小型衛星コンステレーションなど の宇宙技術を通してJAXAの技術、人材を活用しながら実現することを目指す。JAXA新事 業促進部の菊池優太主任によれば、「今後7年間で10件の事業化成立を目指す」という。 事業化提案は通年で受け付けているが、現在は特にISS「きぼう」や低軌道での有人宇宙 活動をテーマとした事業アイディアを8月8日まで募集している
 

JAXA J-SPARCプログラムにより、民間との共同による宇宙ビジネス創出を目指す。
 
岩本事業部長は、衛星データを活用した事業として、衛星画像によって石油タンクの浮き 屋根の影の大きさの変化から貯蔵量を分析し、世界規模での石油の需要予測データを提供 している米Orbital Insight社の例を挙げ、同様に「東京ディズニーランド、ディズニーシー の駐車場を撮した衛星画像から、利用者数の変化がわかる」といったビジネスアイディア について触れた。
 

駐車場の自動車の台数も数えられる衛星画像。
 
2017年秋に設立されたSpace BD社は、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」から超小型衛星を軌道上に放出する事業者として今年5月に選定された。「宇宙ビジネスを行うための人工衛星を軌道上に届けるビジネス」を展開している同社について、岩本氏は「ビジネスがビジネスを生んでマーケットが広がっていく」と紹介した。永崎将利代表は「そうなっていかないといけない。ライバルが出てこないとすれば、それは儲かっていないということだし、競争相手が出てくるくらいパイを大きく、裾野を広げていかなければいけない」と話した。
 

日本では宇宙ビジネスという言葉を耳にする機会が増えてきてはいるものの、ベンチャー企業としては「やること全てに前例がなく、定形業務というものはないので気が休まるところがない。また、短期でお金が入ってくる世界ではなく、人工衛星を作るのに1~2年、ロケット打ち上げ枠を確保しても打ち上げはそこから1年半後になることもあり、そこで初めてお金の授受が発生する。まだまだ大変」だという。
 

さらに永崎代表は人工衛星で取得した宇宙データの“買い手”にも触れ、「アメリカの場合、人工衛星で画像を撮ればそれを国防総省に買ってもらう、というルートがある。NASAの何倍もの予算を持ち、ベンチャー企業は『買い支えてもらう』という構図がある。それは日本にはないが、そこは良い、悪いというような問題ではなく、性質の違いとしか言いようがない。反対に、日本だからこそ軍事利用や技術を奪われる懸念なく付き合ってもらえるということも事実ある」とコメントした。New Spaceと呼ばれる宇宙ビジネスが台頭するアメリカの状況を日本でそのまま模倣することは難しいものの、道は開けるという認識だ。

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トークセッションでは触れられなかったが、宇宙ビジネスのために必要になる要素として、さらに人材育成が挙げられる。経済産業省が今年4月に発表した『宇宙産業分野における人的基盤強化のための検討会 報告書』によれば、国内の宇宙ベンチャー企業の規模は主要12社で270名程度と推定されている。大学などの航空宇宙課程から年間2,400名程度の学生が労働市場に供給されるものの、実際に宇宙産業へ就職する学生は10%に満たないという。衛星画像を用いて解析を行うデータサイエンティストが大幅に不足する可能性が指摘されており、JAXAなどが持つ衛星データのオープン・フリー化を通じて育成用の教材とする方策などが提案されている。また、成功例を通じて宇宙ビジネスに魅力を感じる雰囲気の情勢も必要になる。

 

Image Credit: 秋山文野
■宇宙イノベー ションパートナーシップ(J-SPARC)
[http://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/] (文/秋山文野)

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